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( 2015年1月)

概要

 放射線医学総合研究所分子イメージング研究センターの季 斌(キ ヒン)主任研究員らは、アルツハイマー病の脳の特徴的病理であるアミロイドベータ(Aβ)蓄積を高感度で可視化できる新規のSPECT薬剤の開発に、富士フイルムRIファーマ株式会社と共同で成功しました。
認知症の半数にのぼるとされるアルツハイマー病の臨床診断において、Aβ蓄積の生体内での画像化は極めて有用であり、このためのPET薬剤が幾つか実用化されています。PET薬剤は検出感度に加えて、Aβの蓄積量をよく反映する点で定量性にも優れますが、半減期が短く製造施設から病院まで長距離の輸送ができません。一方、SPECT薬剤は一般的に定量性と検出感度はPET薬剤より劣るとされますが、使用される放射性物質の半減期が長いので長距離輸送が可能な上、検査費用が安く、国内医療機関に多く導入されているSPECT装置で撮像できることから、Aβ蓄積を可視化するSPECT薬剤の開発は、PETに比べて低価格でのアルツハイマー病の画像診断及びその普及が期待できるという点で有用です。
そこで本研究では新規SPECT薬剤(DRM106)を開発し、認知症モデルマウスを用いてAβ蓄積を可視化できるか評価しました。その結果、この新規薬剤は脳内Aβ蓄積を可視化するだけでなく、PET薬剤と同等な定量性と検出感度を有することがわかりました。さらに、アルツハイマー病患者の死後脳でこの薬剤の結合性を調べたところ、既存の Aβ蓄積を可視化する薬剤と異なり、神経細胞の変性にと関わりが強い古典的老人斑というAβ病変に結合しやすい特徴があることがわかりました。
SPECTによる Aβ蓄積の画像検査が実用化されれば、アルツハイマー病の診断法としての普及が期待されるほか、既存の薬剤とSPECT薬剤を組み合わせて、Aβやタウといったアルツハイマー病の原因といわれるタンパク質の蓄積パターンと症状の進行との関係を調べることによって、疾患の病態解明に関する新たな知見をもたらすと期待されます。

論文情報

本研究は米国科学誌Journal of Nuclear Medicineのオンライン版に、2015年1月1日(米国現地時間)付で掲載されました。

“In Vivo SPECT Imaging of Amyloid-β Deposition with Radioiodinated Imidazo[1,2-a]Pyridine Derivative DRM106 in a Mouse Model of Alzheimer's Disease.”
Chen CJ, Bando K, Ashino H, Taguchi K, Shiraishi H, Shima K, Fujimoto O, Kitamura C, Matsushima S, Uchida K, Nakahara Y, Kasahara H, Minamizawa T, Jiang C, Zhang MR, Ono M, Tokunaga M, Suhara T, Higuchi M, Yamada K, Ji B.

Journal of Nuclear Medicine, 2015 Jan;56(1):120-126.

DOI: 10.2967/jnumed.114.146944.

その他

研究成果に関する詳細は下記をご参照下さい。
プレスリリース詳細:(1.69MB)

脳内環境フォーラム
http://www.neurol.med.kyoto-u.ac.jp/beForum/