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( 2013年11月 )
α-シヌクレインの集積はSNARE複合体の機能異常が関係

概要

抗うつ薬として用いられる選択的セロトニン再取込阻害薬(SSRI; Selective serotonin reuptake inhibitor)は、うつ病に加えて不安障害の治療などにも広く使用されています。しかし、SSRIの治療効果の発現メカニズムについては未だに明らかにされておらず、その解明が待たれています。宮川教授らは今回、SSRIの一つであるフルオキセチンを成体マウスに投与し、神経細胞の成熟マーカーや未成熟マーカーを使用して、前頭皮質に存在している神経細胞の成熟度について調べました。その結果、フルオキセチンによって、抑制性神経細胞の一種であるパルブアルブミン陽性細胞特異的に成熟マーカー分子の発現が低下し未成熟マーカー分子の発現が上昇するなど、幼若細胞とよく似た状態になっていることを発見しました。これは通常の神経細胞の発達と逆方向の変化になります。以上の結果から、フルオキセチンには、一度成熟した前頭皮質の特定の抑制性神経細胞を成熟前の状態に部分的に戻す作用があることが明らかになりました。
これまでに宮川教授らの研究グループや他のグループは、フルオキセチンが海馬歯状回(Kobayashi et al., 2010)、扁桃体 (Karpova et al., 2011)、大脳皮質視覚皮質 (Maya Vetencourt et al., 2008) の神経細胞を成熟する前の状態に戻すこと、海馬 (Malberg et al., 2000)、大脳皮質 (Ohira et al., 2013)、側脳室下帯 (Ohira and Miyakawa, 2011) の成体神経新生を変化させることを明らかにしてきました。今回の研究で抗うつ薬の投与によって、作業記憶、個性、意思決定、向社会的行動等の高次脳機能に関与する前頭葉が成熟前の状態に部分的に戻ってしまうこと、つまり一種の「脳の若返り」が生じることが明らかになりました。しかし、この現象についての基礎的な知識はまだ十分に得られていません。脳が部分的に成熟前の状態になってしまうことが個体にとって良いことなのか悪いことなのか、どのようなメカニズムによって成熟前の状態に戻ってしまうのか、発達期の正常な未成熟脳と薬物等の操作によって部分的に成熟前の状態に戻ってしまった脳との違いは何なのか、といった未解決の問題が残されています。これらの問題を今後の研究によって解決できれば、うつ病等の精神疾患に対するより効果的で副作用の少ない予防・治療法、さらには脳の老化への有効な対策法などの開発に結びつく可能性があります。

論文情報

この研究成果は、英国オンライン科学誌「モレキュラー・ブレイン(11月5日)」に掲載されました。

Chronic fluoxetine treatment reduces parvalbumin expression and perineuronal nets in gamma-aminobutyric acidergic interneurons of the frontal cortex in adult mice.
Ohira K, Takeuchi R, Iwanaga T, Miyakawa T.
Molecular Brain Volume 6, Issue 1, 5 November 2013, Page 43

その他

研究成果に関する詳細は下記をご参照下さい。

論文のURL:
http://www.molecularbrain.com/content/6/1/43

資料:(8.78MB)