PubMedID 25607368 Journal Nature, 2015 Feb 12;518(7538);236-9,
Title RBM3 mediates structural plasticity and protective effects of cooling in neurodegeneration.
Author Peretti D, Bastide A, ..., Willis AE, Mallucci GR
理化学研究所 脳科学総合研究センター  内匠研究室    大内田 理佳     2015/03/24

RBM3はシナプスの構造可塑性と神経変性における冷却による保護効果に関わる
健康な成体の脳内では、シナプスが絶えず形成と消失の過程を繰り返しており、構造的可塑性として知られる。一方、神経変性疾患などの病態において、その初期の特徴として、シナプスの数が減少することが知られており、これはシナプスの不足を補う機構に欠陥が生じていることを示唆している。著者らは、冬眠中の動物でシナプスが一時的に減るが、温度の再上昇に伴ってシナプスが再形成されることにヒントを得て、神経変性疾患でシナプス減少を抑制するタンパク質として低温で発現が誘導されるcold shock proteinの一つであるRBM3に着目し解析を行った。
著者らは、はじめに野生型マウスを用いて、実験的に一過性に低体温を誘導し、シナプスの数を観察した結果、低体温時にシナプス数が減少し、体温回復に伴いシナプスが再形成されることを示した。さらに、この現象を、2種類の神経変性疾患モデルマウスで観察すると、アルツハイマー病モデル、またはプリオン病モデルマウスのいずれにおいても、病態の進行に伴いシナプス再形成の能力が顕著に抑制されていた。この体温上昇によるシナプス再形成不全が、その後のシナプス消失、記憶喪失、神経消失の原因となり得る可能性を示唆した。次に、神経変性疾患のマウスモデルで見られるシナプス再形成不全が、RBM3タンパク質の発現誘導の障害と関連していることを明らかにしている。RBM3は低温に応答して脳で産生されるRNA結合性のcold-shock proteinだが、シナプス可塑性に果たしている役割について、これまでにまったく知られていなかった。著者らは、RBM3の直接的な関与を検討するために、予め低体温処理を何度か行い内因性のRBM3発現レベルを高めておく方法、またはレンチウイルスを用いてRBM3を外来性に過剰発現させると、神経変性疾患モデルマウスで失われていたシナプス再形成の潜在能力が回復し、行動異常やニューロン消失を免れ、生存自体が大幅に延長することを証明した。逆に、RBM3を欠失させると、どちらのマウスモデルでもシナプス消失が亢進して病気の進行が加速した。以上は、低温ショックタンパク質が、神経変性における内在性の修復過程の構成要因となり得ること、また神経変性疾患で神経保護を図る際の治療標的となる可能性を示唆する。
   
    本文引用