PubMedID 25356866 Journal Cell Death Dis, 2014;e1497,
Title Cystatin C protects neuronal cells against mutant copper-zinc superoxide dismutase-mediated toxicity.
Author Watanabe S, Hayakawa T, Wakasugi K, Yamanaka K
名古屋大学 環境医学研究所  病態神経科学分野    渡邊 征爾     2015/03/23

シスタチンCは変異SOD1に対する新規の内在性神経保護因子である
 シスタチンC(CysC)は内在性のシステインプロテアーゼ阻害因子であり、全身に広く発現しています。私達が主な研究対象としている筋萎縮性側索硬化症(ALS)においては、CysCは孤発性ALSに特徴的な運動神経細胞内封入体「ブニナ小体」の主要な構成因子として知られ、最近では脳脊髄液中のCysC濃度の低下がALSのバイオマーカーとなる可能性が示唆されています。また、最近、アルツハイマー病の原因と考えられているアミロイドβ由来の毒性からCysCが神経細胞を保護することも報告されました。そこで今回、私達は、CysCがALSにおいても神経保護的に機能するのかを明らかにするため、変異SOD1をモデルとして培養細胞を用いた実験系で検討を行いました。

 まず、変異SOD1を発現する初代培養神経細胞に対し、CysCを培地に添加することで保護効果が生じることを見出しました。同様に、マウス神経芽腫細胞Neuro2a(N2a)へCysCを添加する実験から、CysCはAMP活性化キナーゼ(AMPK)-オートファジー系の活性化に依存して、変異SOD1由来の毒性から細胞を保護することが判明しました。しかし、興味深いことにAMPKの活性化のみでは細胞は全く保護されませんでした。そこで、CysCのシステインプロテアーゼ阻害因子としての機能に着目し、阻害能を失ったW106G変異CysCを作製したところ、W106G変異CysCは変異SOD1由来の毒性からN2aを保護できないことが判りました。この場合も、AMPK-オートファジー系の場合と同様、システインプロテアーゼの阻害のみでは保護効果は見られませんでした。従って、両者の協調的な活性化がCysCによる細胞保護には必要であると考えられました。更に、蛍光標識したCysCを用いて細胞内の局在を検討したところ、通常、細胞に取り込まれたCysCはリソソームに局在した一方で、酸化ストレス下ではリソソームから細胞質へと漏出して凝集体を形成することが判明しました。このことは、ストレス環境下においてリソソームからCysCが漏出することがブニナ小体形成のきっかけであることを示唆するものです。

 今回の結果から、CysCはAMPK-オートファジー系の活性化とシステインプロテアーゼの阻害を協調的に行うことにより、内在性の神経保護因子として機能することが明らかとなりました。また、ブニナ小体の形成はCysCの神経保護因子としての働きと関連していることが示唆されました。今後、ブニナ小体形成の詳細な機序を含め、CysCのALSにおける役割を解明していくことにより、CysCが新たなALSの治療標的となることが期待されます。
   
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