PubMedID 22998874 Journal Neuron, 2012 Sep 20;75(6);1067-80,
Title Neuronal Elav-like (Hu) Proteins Regulate RNA Splicing and Abundance to Control Glutamate Levels and Neuronal Excitability.
Author Ince-Dunn G, Okano HJ, ..., Noebels JL, Darnell RB.
東京慈恵会医科大学  再生医学研究部    岡野 ジェイムス洋尚     2012/11/12

神経特異的Hu(Elav-like)タンパク質によるRNAスプライシング制御
約140億個のニューロンがネットワークを構成するヒトの脳において、その「複雑さ」を生み出すために極めて多種類の調節因子が働いている。機能の異なる多様なタンパク質を、限られた数の遺伝子から作り出すメカニズムがRNA結合タンパク質の研究から明らかになってきた。転写後発現調節機構にはタンパク質の多様性を生み出す「選択的スプライシング」、発現のタイミングや発現量・発現部位を決定する「RNA安定制御・翻訳調節」、アミノ酸変換を誘発する「RNAエディティング」などが知られており、タンパク質分解系とともに、タンパク質機能の質的、量的、空間的、時間的制御を行っている。転写後発現調節の鍵を握っているのはRNA結合タンパク質(RBP)であり、特に組織特異的に発現するRBPが、その組織特有の細胞機能の制御に関わっていることが知られている。しかし、技術的な難しさから、これまでRBPの標的配列の探索は遅々として進まなかった。
 ロックフェラー大のBob Darnell教授は世界で初めてHITS-CLIP法を開発し、RBPの標的RNAの網羅的同定を可能にしたことにより、組織特異的な選択的スプライシング調節機構の解明に大きく貢献してきた。細胞への紫外線照射によりRBP-RNA間が共有結合した複合体を免疫沈降により精製し、そこから抽出したRNAの配列をHigh-throughputシークエンスによって同定する方法により標的RNAを同定できる。本論文で、我々とDarnell教授グループはHITS-CLIP法を用いて神経特異的RBP であるHu(Elav-like)タンパク質の標的RNAを同定し、ニューロンにおけるHuタンパク質の機能の一端を明らかにした。Huタンパク質は、これまでコンセンサスと信じられてきたAU rich 配列ではなく、GU rich 配列に親和性が高く、グルタミナーゼをはじめとする標的RNAのイントロンや3’非翻訳領域に結合し、選択的スプライシングおよびRNAの安定性を制御していることが示された。興味深いことに、イントロン内の結合位置(5’もしくは3’ exon-intron junctionへの相対的距離)によって、近傍の選択的エクソンのskipかinclusionが決定することがわかった。
 近年、選択的スプライシングの制御異常により、神経変性疾患、精神疾患、筋緊張性ジストロフィーなどの疾患が起こることが報告されており、脳内環境の維持に選択的スプライシング制御が非常に重要な役目を果たすことが明らかになりつつある。その制御機構の解明により当該研究が大きく前進することが期待される。
   
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