PubMedID 24728461 Journal Nat Mater, 2014 Jun;13(6);599-604,
Title Hippo/YAP-mediated rigidity-dependent motor neuron differentiation of human pluripotent stem cells.
Author Sun Y, Yong KM, ..., Krebsbach PH, Fu J
広島大学大学院医歯薬保健学研究科 RIKEN BSI  内匠研究室    黒坂 哲     2014/09/29

筆者らは、柔らかい基質上で培養することにより、ヒト多能性幹細胞から運動神経細胞への分化効率を飛躍的に向上させることに成功した。柔らかい基質上で培養されたヒトES細胞は硬い基質上で培養された細胞よりも早期に多能性を喪失し、運動神経細胞への分化に要する時間が大幅に短縮されることがわかった。また、このようにして作製された運動神経細胞は運動神経細胞としての性質をよく再現していた。さらに、このような基質の硬さによる細胞の性質の変化にはHippo/YAPシグナルが関与しており、柔らかい基質上で培養された細胞では細胞質中のYAPのリン酸化が促進され、硬い基質上で培養された細胞ではリン酸化YAPとリン酸化Smadが核内に共在することを明らかにした。本論文の結果は、神経細胞のin vitroでの作製において、Hippo/YAPシグナルおよび細胞骨格を介したメカノトランスダクションの重要性を指摘するものである。

柔らかい基質上での培養が間葉系幹細胞の神経分化を促進することは既に知られており、脳が柔らかい組織であることからも、神経細胞が柔らかい基質を好むことは明らかだと思われます。
神経細胞の発生・分化だけではなく、疾患の発症や進行にもこのような物理的(力学的)ストレスが関わっている可能性があり、神経変性等の解明においてもメカノトランスダクションの観点からの新たな知見が得られるのではないかと考えます。
細胞培養実験においては、ガラスやプラスチックといった、脳内ではありえないほど硬い基質上で培養することが結果にどのような影響を及ぼしているのかを考慮する必要があるかもしれません。
   
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